ジョージ・R・R・マーティン『タフの方舟』

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

タフの方舟1 禍つ星 ハヤカワ文庫SF

タフの方舟 1 禍つ星  収録作
第一話 禍つ星
第二話 パンと魚
第三話 守護者

タフの方舟 2 天の果実  収録作
第四話 タフ再臨
第五話 魔獣売ります
第六話 わが名はモーセ
第七話 天の果実

宇宙一あこぎな商人タフを主人公にした連作集です。
短篇の第一作*1の発表が1976年、物語の時系列順に並べ替えて原書で出版されたのが1986年*2と、なかなかに古い作品ですが「SFが読みたい! 2005年版海外篇」2位、「ゼロ年代SFベスト30 海外篇」では14位にランクインしていることからもわかるように、おもしろさは全く古びていません。

主人公タフが宇宙を飛び回り、訪れた各所の星で活躍するというのがこの連作を通してのパターンとなっています。
もともとは一匹狼の宇宙商人だったタフは、ひょんなことから千年前に滅びた超文明の遺した超巨大宇宙船<方舟>号を手にする。この<方舟>号にはあらゆる異星生物の遺伝子が保存されており、これをクローニング再生させることができる。この<方舟>号を使い、タフは惑星の環境を改造する環境エンジニアとして活躍することになる。


超巨大宇宙船でドンパチやるようなスペースオペラではなく、宇宙船をバイオサイエンス的な使い方をするというところがミソです。
タフは環境エンジニアとして様々な星でクローン技術を駆使して異星生物を生み出すのですが、この奇怪な数々の生物の生態には存分に作者の想像力が活かされています。
この<方舟>号があればほとんどなんでも出来てしまう感があるので(実際、このなんでも出来ちゃうということがタフを増長させることにもなり、これが後の話に絡んできます)、すごいアイディアが盛り込まれているというよりは、登場人物たちのキャラで読ませる話です。
主人公のタフは身長二メートル半ちかくあるデブ、肌は真っ白で全身に一本も毛がなく、顔は無表情、「慇懃無礼」という言葉を知らない子供にお母さんが「慇懃無礼っていうのはこういう態度のことを言うのよ」と教え易い、まさに絵に描いたような慇懃無礼っぷり。また、人間嫌いで猫大好き。超巨大宇宙船内で猫をたくさん飼っています。
このように外見もブサイク、内面も可愛気のない主人公ですが、どこか憎めず読んでいくと愛らしくさえなってきてしまいます。


痛快な娯楽作として超優秀な連作集で、誰が読んでも楽しめるSFとしてオススメです。
最終話は単なる娯楽作にとどまらない、意外と重いテーマを扱っていて、異様な迫力があります。

*1:第五話 魔獣売ります

*2:邦訳はこれを二分冊にして2005年に出版